第九話 初めての羽化
新学期がはじまりました。
おにいちゃんは小学六年生、はなちゃんは小学三年生になりました。
そしてゴールデンウィークも間近に迫ったころから、パパはクワガタ部屋にいる時間が増えていきました。
パパの友だちからもらった新しいクワッチたちの世話に加え、クワッチたちの赤ちゃんのビンをかんさつする時間が増えたからです。
せっかくの週末なのに今日も朝からクワ部屋にこもっています。
はながそっとのぞきにいくと、パパがいいました。
「はなちゃん、みんなようしつを作っているのわかるかい?」
「ようしつ?」
はなちゃんはふしぎそうに言いました。
「ビンのヨコをみてごらん。小さな部屋を作っているだろう?さなぎのへやと書いてようしつって言うんだよ。」
たしかにどのビンにも茶色く窓が開いています。
底の方に作っているものもあれば、中ほどに作っているものもいます。
中にはクワッチのさなぎがじっとしています。
パパはそのうち、一本のビンのふたを開けました。
「はなちゃん、みてごらん」
それは先日みんなでビンこうかんをしたあとでさなぎになったビンでした。
その時と様子が少しちがうようです。
「黒くなっちゃっているけど...死んじゃったの?」
はなちゃんがパパに質問した次のしゅんかん、とつぜん、さなぎがおしりをフリフリさせました。
「よかった!いきてたよぉ。」
はなちゃんは、びっくりしながら答えました。
「もうすぐ羽化が始まるんだヨ」
と、パパが教えてくれました。
よくみると角やあたまなど黒くなっている部分がすけて中が見えます。
あしの部分は、ときおり爪の部分がかすかに動いています。
その日の夕方、いよいよ羽化が、はじまりました。
はなちゃんは、パパとノートを片手にじっとオオクワッチのさなぎをかんさつを開始しました。
ノートに時間とさなぎの様子を書いていきました。
17:03 足の先を動かしています。
17:34 足の皮がぬげて来ました。
17:53 角を動かしています。
18:03 あたまの方の皮がすこし取れました。
18:43 足をバタバタさせています(くるしいのかな)。
18:53 ひっくり返ってうつぶせになりました。
19:03 せなかをの羽をぬぎはじめました。
羽化は、とっても時間がかかります。ちょうどそのころママが呼びました。
「パパ、はなちゃん、晩ごはんよ」
羽化は始まったばかりですが、ふたりは、晩ごはんを食べることにしました。
大好きなカレーライスをいそいで食べ終えると、ふたたびパパとはなちゃんはクワ部屋に戻りました。
19:33 足を使って皮を脱ごうとしています。
20:03 白い小さい羽が出て来ました。とってもきれいです。
20:33 大きな白いお腹を動かしています。くるしいのかな。
20:43 羽がだんだん伸びて来ました。
21:03 クシャクシャだったとうめいの羽も伸びて来ました。
はなちゃんは、さすがにつかれてしましました。
今日の観察はこれまでにしてお風呂に入ってねることにしました。
翌朝、7時に起きてみると、白かった羽か゛あめいろになっています。
頭もまっすぐになってひっくり返っています。
「パパ、クワッチひっくり返っているけど大丈夫?」
はなちゃんは、心配そうにパパに聞きました。
「たぶん、お腹の水分をかわかしながら休んでいるんだよ」
パパが答えました。
10時間以上かけて無事に羽化は終了しました。