第十四話 目指せ玉川上水! 後編

「そろそろお出ましだ。」

パパの一声におにいちゃんとよっくんは身構えました。
冊越しに見えるくぬぎの大木の裏に回り込み懐中電灯の明かりをつけました。
どうじにバサバサっと何かが落ちました。はなちゃんは、思わずパパの後ろに隠れました。

「うわっ、かぶちゃんだ。」

おにいちゃんが頭上のくぬぎの樹液酒場を指差して叫びました。
そこには二匹のおとこの子とおんなの子のかぶちゃんが仲良く樹液を吸っていました。
廻りにはガやコメツキムシが何びきか離れて蜜を吸っています。

少し離れていたよっくんが言いました。

「ノコ見っけ!」

つぎの瞬間、よっくんの手には、大きなノコギリクワガタが捕らえられていました。

「おじさんが懐中電灯をあてた時に木の上から落ちてきたんだよ!」

よっくんは、興奮して言いました。

探検隊は、さらに進みます。
こんどは、太さはそれほどではありませんが、ボコボコに穴の開いた木の前で止まりました。

「こわーい!木の妖怪みたい」

はなちゃんは、思わず言いました。
確かにディスニーのアニメに出てくる木の妖怪のようです。
いくつか穴が開いた部分は叫んでいる顔のようです。
ちょうどその口の部分から蜜が出て虫達が集まっているみたいです。

パパは、リュックからピンセットを取り出しました。 そして少し背伸びをしながら"その穴"を懐中電灯で照らしました。

「ヒラタだ!」

「おじさん、ホント?」

よっくんは、一生懸命背伸びをしますがとどきません。
パパは、懐中電灯を照らしながら、その"口"の中を探ります。
今度は、リュックから長い針金のような棒を出し穴をほじくりはじめました。

「面白い針金だね」

おにいちゃんが興味深そうに聞きました。

「これはね。かきだし棒と言ってクワッチ採りの名人が発明した秘密兵器なんだよ!ホラ、採れた!」

次の瞬間、パパの手にはヒラタのおとこの子がつかまれていました。

「おじさん、スッゴーい!」

よっくんがヒラタをのぞき込みました。
しかし、パパはケースに入れるとまたその"口"の中をのぞき込みました。

「歯医者さんみたい!?」

はなちゃんが言いました。
確かにパパが懐中電灯片手にのぞき込んでいる姿はお医者さんのようです。
どうやら"口"の中にはまだ何かいるようです。

やがてパパの"診察"か終わりました。

「おんなの子もいたよ」

パパは次の瞬間おんなの子のヒラタを取り出しました。
みんなはまたパパの手のひらをのぞき込みました。

「ピッカピカだね」

おにいちゃんが言いました。
確かに他のクワッチのおんなの子に比べてピカピカでツルツルです。

「ヒラタのおんなの子はオオクワガタのおんなの子と同じように光沢があるんだよ。でもタテスジがないので見分けがつくんだよ。」

それなりの成果をあげたので水筒のお茶を飲みながら一休みです。

家から持ってきた水槽をのぞきながらよっくんが言いました。

「おじさん、新しいクワガタも採れたし、このパラワンヒラタ逃がしてあげようかと思うんだ。」

「よっくん、もったいなくないの?」

おにいちゃんは、よっくんの水槽をのぞきながら言いました。

「こんなに大きなクワッチだったら林の中で無敵じゃない?」

はなちゃんは、眼を丸くして言いました。

「広い林の中に放してあげたいんだ。こんな狭い水槽で一生終えてはかわいそうだし...」

パパは三人のやり取りをじっと聞いていましたが、やがてよっくんに質問しました。

「アメリカザリガニって知ってるかい?」

「うん、おばあちゃんの家の側の川で採ったことがあるよ。」

よっくんは、得意そうに答えました。

「そのザリガニを去年学校の教室で飼ってたんだよ!」

おにいちゃんが続きました。

「実は、アメリカザリガニは、数十年前までは日本にいなかったんだよ」

「えっホント?」

二人はビックリしたように言いました。パパは続けます。

「戦争が終わったあとで日本に持ち込まれたんだ。」

「それまで日本にはザリガニはいなかったの?」

おにいちゃんが質問します。

「いや、日本には昔から日本のザリガニが居たんだよ。でも今ではほとんどがアメリカザリガニなんだ。」

「生存力が強いんだ。」

おにいちゃんが得意そうに言いました。

「せいぞんりょく?」

今度ははなちゃんが聞き返しました。

パパの話によるとアメリカから持ち込まれあっという間に全国に拡がったそうです。

「こういった外国の生き物が日本で広がった例は他にもある。例えば魚のブラックバスもそうなんだよ」

「お父さんと時々釣りに行って釣れるよ」

よっくんが答えました。

「よっくん、外国の強いクワガタが日本の森や林に放虫されたらどうなると思う?」

「..........」

水槽を覗くとパラワンヒラタを前に先程採ったヒラタが心持ち怯えているように見えました。
みんなはパパが言いたいことがわかりました。

「よっくん、パラワンヒラタと一緒に帰ろう」

「...うん。」

パパは、車のエンジンのキーを回しました。

(つづく)