第十二話 クワッチどこにいったの? 後編

やがて脱走騒動から一週間が過ぎようとしていました。
みんなクワッチが逃げたことなど忘れかけていました。
そんな夏の週末の夜のことです。

「ゴ、ゴキブリ!」

廊下からママの叫び声が聞こえました。

「どうしたの!?」

食後にテレビを観ていたみんながあわてて廊下に飛びだしました。
薄暗い廊下の寝室の扉の前に何やらゴキブリらしい黒い虫がいました。
パパは読んでいた新聞紙を丸めて戦闘モードです。
はなちゃんは電気をつけました。

「あれ?角があるよ」

おにいちゃんが言いました。
確かによく見ると立派な角が二本ついています。

「クワッチ!」

パパが叫びました。

それはまぎれもなくおとこの子のクワッチでした。 家の中を探検していたのでしょう。
体はホコリだらけですが、門番のように角をふりかざします。

「こんなになるまでどこにいたのよ」

ママはやっと落ち着いたのか言いました。
パパはそっとひろいあげました。

「おんなの子はどこにいっちゃたの」

はなちゃんは、心配でたまりませんでした。

次の日は、とてもよく晴れました。

ママは洗濯物に加え、寝室のクローゼットにしまっていたかばんを干すことにしました。
はなちゃんもお手伝いです。
クローゼットの扉を開けて中からかばんを出し始めた時のことです。
はなちゃんが驚いたように言いました。

「ママ、クワッチのおんなの子!」

「えっ!?」

ママは驚いて下を見下ろしました。
クローゼットの扉と床においているパパのスーツケースの隙間にクワッチのおんなの子は挟まっていました。

「パパ、おにいちゃん、クワッチのおんなの子が見つかったわよ」

ママが大きな声で言いました。
パパとおにいちゃんが飛んできました。

「あれ?なんか変だよ?」

おにいちゃんが言いました。
よく見ると少し様子が変です。
おんなの子はぴくりともしません。

「死んでいる...」

パパが言いました。
そのクワッチは体がおしつぶされているようでした。
みんな息を殺してパパがティッシュの上にそのクワッチを乗せるのを見ていました。

「かわいそうに扉が閉まった時に挟まってしまったんだな」

パパが言いました。

「昨日、見つかったおとこの子はきっとこの子を守ろうとしていたのね」

ママが哀しそうに言いました。
はなちゃんは、悲しくなってきました。
おんなの子のクワッチが死んだこと。
そしておとこの子のクワッチがそれを守ろうと門番をしていたかと思うと、胸が詰まる思いでした。

「お墓を作ってあげよう」

おにいちゃんは言いました。

「うん...」

二人でおんなの子のクワッチのお墓をお庭に作ってあげました。

夏の夕日がとてもキレイな夕暮れでした。

(つづく)