第一話 はなのパパ

「お昼ですよ♪」

やさしい春の陽ざしが差し込む日曜日のことです。

「はーい!」

子供たちは、声をそろえて返事をしました。

「パパはどうしたの?また、かぶちゃんかしら...
仕方ないわね。おにいちゃん、はなちゃん、パパをかぶ部屋から呼んできてちょうだい」

「はーい!!」

子供たちは、ふたたび声をそろえて返事をしました。

はなちゃんは、小学二年生のおんなの子です。
おにいちゃんは、サッカーとゲームが大好きな小学五年生です。

はなちゃんのお父さんはお家にいるときは、いつもくわがた部屋にいます。
ママはいつも「かぶ部屋」と言うけれどパパに言わせるとくわがた部屋だそうです。
はなちゃんやママには同じに見えるけどパパにとってはかぶちゃんとくわがたは全然違うそうです。

やがてパパはグレーのトレーナーにジーパンといういつもの服装で子供たちとリビングに戻って来ました。

「きょうもまたカッコイイおとこの子のクワッチが羽化していたぞ!」

パパは興奮気味に言いました。

いつしかはなちゃんのおうちでは、クワガタのことをクワッチと呼ぶようになりました。
これはたまごっちをもじってはなちゃんがつけたニックネームなのです。

パパは、春から秋にかけては、毎朝早く起きてクワッチの餌の交換をしています。
夜は、パソコンで何やらしらべごとをしています。
たまに早く帰ってきても一階のかぶ部屋にこもってゴソゴソしています。

まるでクワッチみたいに。

今、はなちゃんのおうちの中にはいったい何匹のクワガタがいるかわかりません。
お庭の花壇の片隅には、パパがクワガタの餌のキノコの生えたおがくずを捨てています。
そのなかには、かぶちゃんの幼虫もたくさんいるそうです。

パパは子供の頃から昆虫採集や生き物が大好きだったそうです。
昔のことはパパが子供の頃から一緒に住んでいるミドリガメのかめ吉に聞かないとわからないけど。

でも、ママと結婚しておにいちゃんとはなちゃんが生まれてしばらくするまでは、お仕事やゴルフばかりでかぶちゃんなんて興味も無かったそうです。

実は、パパがクワちゃんの飼育を始めたきっかけは、はなちゃん達にもあったのです。

(つづく)